「多摩川の鮎」(有山敬子さん・文 月刊『五行歌』より転載)
日野宿発見隊のよき理解者である有山至さん敬子(ゆきこ)さんご夫妻が営まれているカフェ「花豆」で、日野宿発見隊十周年を祝う会の打ち上げの折、多摩川でとったという鮎をいただくことができました。数年前に日野一小近くの用水でとった鮎を食べたという話は聞いていましたが、まさか自分たちも食べられるとは思ってもみませんでした。このほど敬子さんがこの鮎にまつわるエッセイを月刊『五行歌』に投稿されています。
日野宿にとって「鮎」は特別な存在です。今回刊行した『新編日野百物語』にも鮎の話が掲載されています。そこで有山敬子さんのご了解をいただきここに転載させていただきます。
「多摩川の鮎」 有山ゆきこ
さだやまさんに初めて会ったのは、主人の中学時代のクラス会を我が家でやった時だった。
ひょんな事から自宅でカフェを営業しているのでクラス会をやる事になったという訳。14名ほど集まった。主人も皆さんもとても楽しんでいて良い会だった。お開きになり帰る時、一人の人が「俺、鮎とってるのよ。今度とれたら持ってくるよ」と言って帰っていった。その人がさだやまさんだった。最近多摩川の水がきれいになって鮎がいるという話は聞いていたけど、本当にとれる
のかしら。本当に持ってきてくれるのかなと思った。主人は「さだやまは昔 悪だったんだ。彼の家は屑屋(注:廃品回収業)で多摩川の辺りに住んでてさ。今は全然面影ないよ。立派だよ。娘はピアニストだしなー。」と感慨深そうに言った。
それから一週間程した午後「こんにちわ!」と言ってさだやまさんが発砲スチロールの箱を抱えて我が家に現れた。中にはとれたばかりの鮎が10匹程入っていた。早速焼いて食べた。
じっくり火を通した若鮎は頭から全部食べられた。本当に美味しい鮎だった。今まで食べた中で一番美味しい鮎だった。千曲川の鮎は毎年食べてるけどそれより何倍も美味しく感じた。多摩川の鮎は程よい大きさで香りが良い。なにより天然とれたてなのだ。さだやまさんに感謝である。
こんなに近くの多摩川の鮎なんて夢の様。こんな贅沢あるかしら。
小春日和の気持ちの良い日だった。立川まで40分程歩いてついでに買い物でもして来ようと思った私はスニーカーにリュックという格好で歩き始めた。多摩川にかかる立日橋で欄干から身を乗り出す様にして川を覗いているおじさんがいた。さだやまさんだった。「こんにちは」というとびっくりしたみたいに私をみて「あ 散歩ですか」と言ってから「ほら あそこ見てよ。あれみんな
鮎だよ」と言った。私も欄干から身を乗り出してじっと川を見たけど、良く分からない。「ほらほらあそこ みんな鮎だよ」そのうち眼が慣れてくると、いるいるすごく沢山いる。びっくりだ。鮎が多摩川に本当にいるのだ。「千匹はいるよ」とさだやまさんは言った。「また持っていくよ」と言ってくれて翌日また鮎が我が家にどっさり来たのだ。
多摩川の鮎は私にとって今年のビッグニュースのベストワンにランキングされる程の出来事なのだ。
こんなに
きれいになった
多摩川
人間の知恵って
凄いな